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6月21日にぐるなび伊東氏をお招きし「UTマーケティング勉強会vol.1」を開催しました

UTマーケティング勉強会」は、UNCOVER TRUTHが自社事業の枠を超えて多方面のプロフェッショナルをゲストスピーカーにお招きし、マーケティングに関する知見を共有する新たな試みです。その第1回目となる勉強会を先日、UNCOVER TRUTHオフィスで開催しました。

第1回目のゲストスピーカーには、株式会社ぐるなびの伊東周晃氏をお迎えし「コンテンツマーケティングを次のSTEPへ・海外先行事例に学ぶ『オーディエンスマーケティング』戦略」をテーマにお話しいただきました。このレポートでは、伊東氏の講演内容をダイジェストでお伝えします。

信頼関係のあるオーディエンスの存在によって、新たなビジネスが生まれる

伊東氏は講演の冒頭で、コンテンツマーケティングの概念を言語化したContent Marketing Institute(以下、CMI)ファウンダーのJoe Pulizzi氏が、2017年の「Content Marketing World」のキーノートセッションで話した映画「スター・ウォーズ」に関するエピソードを共有してくれました。

「スター・ウォーズ」第1作公開前年、映画配給会社(20世紀フォックス)の役員らは、この作品がおそらく失敗するだろうと考え前向きではありませんでした。
しかし、監督のジョージ・ルーカスはある交渉を勝ち取ることで公開にこぎつけたのでした。
それは、「ルーカスは映画作品のチケット売上100万ドルをコミットする代わりに、マーチャンダイジングの権利をすべて得る」というもの。

結果、どうなったか。

1977年から2015年までのチケット販売収益は50億ドルなのに対して、関連商品販売などマーチャーンダイジングによる収益は120億ドルに昇り、後者はすべてルーカスが手にすることになったのでした。
この出来事は、当時の配給会社にはチケット販売というビジネスモデルしか存在しない中、映画ビジネスのマネタイズ手法を大きく変える契機となったと言います。

さて、配給会社には見えず、ルーカスには見えていたものはなんだったのでしょうか?
Joeは、「それは『ロイヤルオーディエンス』のもたらす本質的なビジネスバリューなのだ」と言います。
“作品(コンテンツ)を通じて繋がるオーディエンスとの信頼関係”を核として直接的・間接的な様々なビジネスモデルを構築していくことができる可能性にルーカスは気づいていたと。

[参考リンク] Joe Pulliziによるスター・ウォーズのエピソードはこちらの動画でも確認することができます。
How to Generate Direct Revenue from Your Marketing Program | C3 Conference 2018 | Joe Pulizzi – YouTube

そして、昨今は “ルーカスのように”オーディエンスの価値に気づいた企業による新たな動きが生まれてきている とJoeは言います。

例えば…

□Appleによる10億ドルのコンテンツ投資
https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-08-16/apple-said-to-plan-1-billion-investment-in-tv-shows-and-films
-メーカーであり、プラットフォーマーでもあるAppleがコンテンツへ直接投資し、コンテンツを通じたオーディエンスとのつながりを強化

□Pepsicoのコンテンツスタジオ設立
https://www.marketingweek.com/2016/08/31/how-pepsico-is-enabling-its-brands-to-fund-their-own-marketing/
-飲料メーカーのPepsicoが、直接オーディエンスとつながる為の取り組みを開始。さらには、ここで制作されたクリエイティブの外販という新しいビジネスへの取り組みも。

□Buzzfeedが運営するレシピ動画サービス”Tasty”がGEと共同で調理機器を販売
https://www.adweek.com/digital/buzzfeeds-tasty-is-launching-a-smart-cooktop-that-connects-to-its-new-recipe-app/
-すでにメディアを通じてつながっているオーディエンスとの関係価値を広告以外の新しいビジネスモデルで回収する事例

Joeは、“Today,the media business model and the product business model are exactly the same. (今日、メディアとメーカーのビジネスモデルは完全に同じである。)”、すなわち、「私達はオーディエンスビジネスの世界にいるのだ」と言い切ります。

コンテンツマーケティングによりトラフィックを得たり、シェアを増やしたり、リードを獲得すること、それは大変素晴らしいこと。
しかし、そこにとどまらず(=手段としてのコンテンツマーケティング)、オーディエンスとの信頼関係の価値をレバレッジさせてビジネスモデルへ昇華するエンジンそのものとしてコンテンツマーケティングを捉えていくべきだとの強いメッセージを参加者に送ったのでした。

オーディエンスの出発点は「アドレサブル(Addressable)」であること

さて、コンテンツマーケティングの文脈でオーディエンスを考える場合、どうも日本と欧米では捉え方のニュアンスが違うケースが多いと感じます。

欧米では、オーディエンスは「何かしらのサブスクライバー、会員など継続的な関係を前提としたつながりができた状態」を指すのに対し、日本では「PVやUUなどトラフィック」の話になりがちだと。
この背景には、コンテンツマーケティングが本来志向する「オーディエンスからの信頼獲得」という本質が理解される前に、「コンテンツSEO(記事型を中心とした低品質キュレーションや、やたら長い文章)」が流行してしまったことが影響しているのだろうと考えられます。
コンテンツマーケティングとSEOは、チャネルの観点でオーバーラップする領域は多少あるとは言え、その部分はとても小さいものです。

この「何かしらのサブスクライバー、会員など継続的な関係を前提としたつながりができた状態」のことを、Joeと共にContent Marketing Worldを盛り上げてきたCMIのChief Strategy AdvisorであるRobert Roseは、「Addressable Audience(アドレサブルオーディエンス)」と呼びます。

アドレサブルオーディエンスは、コンテンツを通じてつながることでこそ可能な「誰か特定可能なオーディエンス」という意味。
オーディエンスを満足させたり、触発するコンテンツを提供することで、オーディエンスの側が、「あなた(メディア・企業)からの話をもっと聞かせてほしい、私に届けてほしいから私の情報を喜んで教えたい」という、健全なパーミッションを得た上で、Eメールアドレスや住所などが伝えられ、つながるということ。

これを起点として、より関係が深まっていけば(サブスクライバーに関する関心や嗜好などの情報が豊富になっていけば)、一人ひとりのオーディエンスのビジネスバリューが大きくなっていくはずです。
伝統的なマーケティングファネルは、広くユーザーを集めた後、ステップ毎に徐々に離脱者が出て、最終的に母数の数%が最終的な顧客になるというファネルで考えることが一般的だが、コンテンツマーケティングは、アドレサブルな関係を起点として一人ひとりの価値が徐々に大きくなっていくため、イメージとしては逆ファネルのような構造になるというのがRobertの考えです。

更にRobertは、オーディエンスと健全につながることを前提とするコンテンツマーケティングの考え方にとって、個人情報に絡むGDPRやデータフラグメンテーションなどの時代の到来は福音であるとまで言っています。

ちなみにアドレサブルオーディエンスの種類は、Joe PulliziとRobert Roseによる共著「Killing Marketing」のなかでヒエラルキー構造として図示されています。
CMIのこちらの記事にも同じものが掲載されておりますのでご覧ください。

Prepare to Be Ignored If You Don’t Have Subscription Goals
https://contentmarketinginstitute.com/2016/09/ignored-subscription-goal/

ここでは、Eメールアドレスが最も価値が高く、Facebookのファンが最も価値が低いという整理になっています。判断基準となるのは、オーディエンスとのコミュニケーションがコントロール可能かどうか
プラットフォーム側の政策判断や、アルゴリズム変更の影響を受けやすいサブスクライブ手法はコントロール性が低いため、価値を高く置かないという考えですね。
著名なコンテンツマーケターであるAnn Handleyも自身のプレゼンテーションの中で、“Email is the only place where people (not algorithms) are in control”という表現でその価値基準を表現しています。

Eメールは日本だと古い手法と捉えられがちですが、考えてみればマーケティングオートメーションにおけるメール施策の果たす役割は大きいですし、Eコマースの商流も今でもメール経由が最も多いという話もよく聞きます。
昨今はCRMデータ連動のメールマーケティングソリューションの発達も進んでいるため、自社のサブスクライバーの比重をどこに置くか、改めて考えてみるきっかけになれば幸いです。

「聞く耳を持ってもらえる存在」を目指す

伊東氏はオーディエンスを「買ってくれる人」だけにに価値の比重を置きがちになることは、特にメディアサイトにとっては、正しい捉え方ではないと考えます。
今は買ってくれるわけではないが、私達のコンテンツを広めてくれる役割を担う人(Amplifier)の存在はとても大事です。
様々な観点でオーディエンスのセグメンテーションを行った上で、それぞれの価値を時間をかけて高めていくことがオーディエンスとの関係を深め、ビジネスバリューを高めていくために必要な考え方です。

ちなみにRobert Roseは、このようなオーディエンスを構築したり、適切にセグメントしたり、マネージしていくことを生業とするAudience Strategistという職業が生まれてくるはずだとも述べています。

[参考リンク] Audience Strategist: The New, Critical Role on Your Content Team
https://contentmarketinginstitute.com/2017/11/audience-strategists-role/

さて、ここまでスター・ウォーズの話に始まり、アドレサブルな状態を前提として関係を深めていく戦略の話などをさせていただきましたが、「それって昨今言われるファンマーケティングとか、熱狂●●みたいな世界ってこと?」と思われた方もいたかもしれません。
確かに「熱狂的なファン」がすべての製品やサービスについてくれればそれは理想的な状態です。
ですが、目指す山がそれだとあまりに道のりが果てしなくて、自身が管理しているマーケティング予算では無理だよと思われる方もいるだろうとも思います。

「私が思う現実的な目指すべきオーディエンスとの関係は、“聞く耳を持ってもらえる関係”を作ることだと思います」と伊東氏は言います。

今日、情報量が爆発的に多い時代、情報が基本的にはスルーされる時代において、企業やメディア側に耳を傾けて振り向いてくれるオーディエンスとの関係性をまずはしっかり作れることを目指してほしいと考えます。

そうなるためにコンテンツが目指すべきは、ある領域・分野において「誰か(=対象オーディエンス)にとっての信頼できる情報ソースになること」(●●に関してなら、このサイト、この人の話を聞かなきゃ!の状態)だと伊東氏は述べ、講演を終えました。

講演の後には「実際にEメールマーケティングがうまいと感じる企業はどこか」「Eメールサブスクライバーの価値が高いというが、体感的に疑問がある」「ロイヤルカスタマーの定義をどう考えているか」といった質問や「クチコミ投稿サイトを運営しているがなかなかクチコミが集まらない」といった悩み相談が多数寄せられ、コンテンツマーケティングの第一人者である伊東氏から直接アドバイスをもらえる貴重な機会となりました。


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