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和田浩子氏、坂井直樹氏トークセッション|「USERDIVE connect 2018」イベントレポート(前編)

11月14日、UNCOVER TRUTH のコーポレートイベント「USERDIVE connect」を開催しました。

価値のあるインターネットの世界を築くため知見と未来を共有しあう「USERDIVE connect」

UX、CXといった言葉が注目されるようになり、多くの企業がデジタルを活用した顧客体験向上に取り組み始めています。UNCOVER TRUTH は創業以来今日まで、データから顧客のインサイトを把握してWebサイト上の顧客体験を向上する「UXグロースハック」をお客様と二人三脚で実行してまいりました。

創業5年の節目を迎える今年、業界の壁を超えて顧客体験をより良いものにするために共に学ぶ場として、初めてこのようなイベントを開催しました。冒頭のご挨拶で代表の石川が「お取引先同士がコミュニケーションできる機会を作りたかった」と話したように、価値のあるインターネットの世界を築くため、知見と未来を共有しあう機会をご提供できればとの思いで開催した本イベント。レポート前編では、第一部の様子をお伝えします。


ブランドを生み出す「0→1(ゼロイチ)」の世界

第一部は 「ブランドを生み出し、成長させるためにマーケティング部は何をするべきか」 をテーマに、トークセッションを行いました。三部構成の本イベントのうち、このセッションの位置付けは「0→1(ゼロイチ)」の世界。元P&Gの副社長&マーケター和田浩子氏と世界的コンセプターの坂井直樹氏をお迎えし、ゼロからブランドを生み出し成長させるプロセスについて語っていただきました。


マーケティングとは、何なのか?

石川:そもそも「マーケティングとは?」というのが最初のテーマです。プロモーションをしてヒアリングをして、消費者とコミュニケーションを取ってプロダクトを広げていくことかな・・・というのが私の考えだったんですが、これは打ち合わせの時点で和田さんから「全然違う」と言われちゃいましたね。マーケティングとはプロダクトの全てに関わるものである、と。

和田:石川さんが言っているのは「業務としてマーケティング部がやること」ですよね。マーケティングには色々な側面があってどの側面も同じように重要ですが、特に多くの人が見落としがちなのは、ブランド育成のために何をしないといけないか?という視点です。ブランド育成のためにしないといけないことっていうのは、相手=消費者に変化を起こすということ

では変化とは何か。これには3つのステップがあります。まず、消費者が知らなかったことを、まるで自分が知りたかったかのように思わせながら、かつ好感をもって知ってもらうこと。その次に、自分の体験として使いたいという思いに至らしめること。そして最後に買ってもらい、使い切った時にまた同じものを手に取ってもらうということ。この「買ってもらう」というのは売上に至るプロセスですが、皆さん一番お好きな話ですよね。マーケティングっていうと皆さん、売上売上ってそればっかり。本来は 「知ってもらうこと」「使いたいと思ってもらうこと」「買ってもらうこと」、これらの変化を起こす流れ全体がマーケティング なわけですが、この考え方をできていない企業が多すぎます。

坂井:ブランドが作り手側で勝手に”生まれる”ことはないですからね。製品が工場で作られるものであるのに対して、ブランドは消費者の頭の中、心の中で作られるもの。私が(クライアント企業と)打ち合わせをするときも、必ずその前提を整理します。

ブランドとは消費者の頭の中に澱(おり)のように溜まっていくもの

石川:なるほど。ある意味、ブランドは”作るもの”じゃないということですか?

和田:いや、意図的に作るものではありますよ。ただし時間をかけて労力をかけて作り上げるもの。「ブランド作りたいね」って言った瞬間にできるものじゃないという話です。

坂井:例えるなら、ブランドは色々な燃料(CMやSNS)を使って熱気を噴射し続けないと墜落してしまう熱気球のようなものですかね。

石川:やり続けるという行動自体が、ブランドを作るということであると?

和田:消費者には毎日の暮らしがあります。その中で、ブランドに触れる瞬間瞬間がある。例えば飲料メーカーの商品Aの担当者は四六時中商品Aのことを考えています。でも、消費者が商品Aのことを考えるのなんて、毎日の暮らしの中のほんの一瞬なんですよ。その中でAを知ってもらい、選んでもらい、買ってもらうという行為が自然に起きる・・・少なくとも消費者自身は自然に選んでいると思っている、という状況を生む必要があるわけです。

石川:そのためにはどうすればいんでしょうか?

和田:私は 「フレッシュ感を伝える」 とか 「リフレッシュしていく」 というふうに表現するんですけど、「これが私にとって一番いいものなんだ」と思い続けてもらうことですね。 ブランドとは消費者の頭の中に澱(おり)のように溜まっていくもの。 それをリフレッシュしていくということです。

ポジショニングがぶれなければ、手法は変えてもいい

石川:そういうブランドっていうのは、通していくべきものなんでしょうか。一貫性の大切さ、みたいなことについてお聞きしたいです。いろんなところでいろんな仕掛けをして・・・っていうケースもありますよね。

和田:それは一番ダメなパターンですね。あれもこれもと取りこぼしがないようにすることが大事だと思っている人が多いですが、どこにでもいるっていうのは、どこにもいないのと一緒。だからポジショニングが大切なんです。ポジションニングさえしっかりしていれば、同じ概念をもったクリエイティブとなって、ユーザーに伝わっていく。

石川:僕らの会社だと、WebサイトのCVRを向上させるためにあれこれと打ち手を考えてサイト設計やデザインを変えていきます。そういう“変化”は大丈夫なんでしょうか。

和田:例えばある商品のために旅行のサイトを使う場合、必要なのは「旅行をする時に、商品のベネフィットは旅行しているときに、どのように役立つかを考える」ということですよね。あれこれとベネフィットを変えてはいけない。そこがぶれなければ、やり方は変えたっていいんです。P&Gがブランディングやマーケティングという概念を作って80年くらい経ちますけれども、手法はどんどん新しいものを取り入れながらやっています。ただ、ポジショニングの定義は80年間変わっていません。

坂井:デザインの歴史が100年ということを考えると、マーケティングの概念が誕生して80年っていうのはちょっと面白いというか、感慨深いなと思いながら聞いていました。それぞれ違うものですが「ブランドを作るためのスキルとしてのデザイン」というものはありますよね。

和田:どちらもやり尽くせていないですからね。 マーケティングというのは、今あるものや既存のもの、いわゆるデファクトと違う風にデザインするということそのもの だから、未来永劫古びない手法なわけで。そこにテクノロジーの力が加わったりはするけれども、デザインとかマーケティングという考え方には普遍性があります。

順序でいうと、最初に製品がある。その製品の秀でている点っていうのは、設計の時点で存在していますよね。ポジショニングから設計するのではなくて、その製品の特徴の何を選んでポジショニングするかを考えるんです。ポジショニングすると、覚えてもらえる。ブランドを確立するということは、不老不死の命を与えること、ポジショニングする時に与えられた定義が未来永劫機能するということです。

石川:製品を作る際には、コアな機能を選ぶところから入るべきということでしょうか?

和田:皆さん、そこを深く考えていないんですよ。マーケティング施策を展開する時、媒体によってポジショニングを振り分けたりしているでしょう。先ほども言ったように、ポジショニングというのが澱になって対象者の頭の中にきちんと溜まっていっているかを確認しなければならないのに、そういうこと(ポジショニングを振り分けること)をすると力が削がれます。企業側は商品を出した時点で100%その商品のことを知っているけれども、消費者は知らないんだから。100%知ってもらうまで、ポジショニングを変えてはいけないんです。

behaviorを変えさせるのがマーケティング

石川:対象者の中に溜まっていくというのは、意識に刷り込まれていくみたいなことでしょうか。

坂井:2007年にAppleがiPhoneを発売した時、スティーブ・ジョブズは3つのキーワードを挙げましたよね。「電話を再発明する」、「革新的なUX」、「革新的なインターネット・コミュニケーション・サービス」。このキーワードを振り返ると、ジョブズがマーケターとしても優れていたことが分かります。当時、日本にiPhoneを入荷したらどれくらい売れるかという試算が全くもって当たっていなかったんですが、それは根拠がなかったからです。なぜなら人々は、UX、つまりbehaviorを変えるということ自体にどれだけの価値があるかということに気づいていなかったからです。

和田:人々のbehaviorを変える、態度変容を起こさせるというのがキーワードになりますね。営業の人は売上を増やそうとか客単価を増やそうとか言いますけど、マーケターが客単価とか言い続けている間はどこにもたどり着けませんよ。単価がどうこうじゃなく、一人のお客様が気持ちよく使う、もっと使う、複数のアイテムを使うということ。一人のお客様がどれだけ気持ちよく、たくさん、何度も、商品を使ってくれるか。そのための方法を考えていないうちは、ブランディングなんて一歩も進んでないの。 会社の中で消費者のことを真剣に考えるのはマーケターだけなんですよ。マーケターが消費者のことを考えないで、誰が消費者を動かすんだっていう話です。

石川:プロダクトは消費者から生まれる、という考え方でしょうか。

坂井:消費者のインサイトの観察から生まれるという方が正しいですかね。

石川:消費者に直接聞いたらだめということですか?

坂井:いや、聞くのも大事ですし。それを元にインサイトを洞察するのも大事。

和田:「事件は現場で起きている」っていう、映画のセリフみたいなものですよね。現場で起きている事件を本当に見たことがあるのか。データを見ただけで消費者を分かった気になっているんじゃないのか。もっというと、店頭のことを知っていたって、消費者を知っていることにはならないんですよ。 買って帰った家でどう消費され、どう満足されているのかを理解しないとダメ。 買った時点で満足することなんてありえません。満足するというのは、プロダクトのパフォーマンスと自分の選択がマッチしたことへの高揚感ですから。

石川:UNCOVER TRUTH が日々考えているのは、客単価、CPC、CPAという世界なんですが…僕らでいうと、Webサイトをきっかけに消費された先を考えてWebサイトのコンテンツを作れているかというところまで考えなきゃいけないということでしょうか。

和田:WebサイトにはWebサイトの役割があります。消費された先のことを考えないといけないのは、今日ここに座っている人たちですよ。皆さんが業務の中でプロモーションや流通に対して使っている労力に比べると、エンドユーザーの理解に使っている労力はまだまだ少なすぎます。

石川:使った結果を見据えながらプロモーションするのが大事ということですね。

和田:市場でその製品がデファクトになっていればマーケティングとしては“勝ち”ですよね。それを乗り越えて新しいデファクトを作ることができれば、No.1の座に座り続けることができる。No.1じゃない人は、デファクトを超える“仕組み”を考えれば勝てます。デファクトになるっているということは、他の商品にスイッチしようと思わないマインドセットも一緒に獲得しているということ。そんな中でbehaviorから変えさせるのがマーケティング。それはかなり大変なことなんです。

坂井:スマートフォンがすごいのは、それまで普通に使っていたものの方が「ガラケー」なんていう呼び方になってしまっているところですよね。イノベーションというのは変わったことをすることではなくて、新しいスタンダードを作ることということ。まさにそれをやったのがスマートフォンだと思います。

マーケティング・マインドとは

石川:今みたいなお話はよく理解できるんですけれども、正直、日本の企業の組織だと難しいこともあるんじゃないでしょうか。何件獲得しなさいとか、そういうことが目標として設定されているマーケティング部門も多いですよね。

和田:組織のせいにしようが何だろうが、できないと言っている間はどこへもたどり着けません。会社にきて定時の時間内でやることやって、25日になればお給料もらって満足!みたいなマーケターがいる会社はそのうち没落しますよ。 エンドユーザーを深く深く理解しようと努力して、その中できら星のごとく新しいアイデアが出た時に初めて、新しいブランドに向かって歩き始めていると言えるんです。それがマーケティング・マインドというもの。

石川:マーケティング・マインド。坂井さんはこの言葉についてどう思われますか?消費者のことをきちんと観察する、ということですよね。

坂井: 最大限のクリエイティビティーを駆使し、マーケティング・マインドを常に持ってマーケティング領域で普通のことをちゃんと当たり前にやろうよ ということでしょうね。

和田:そう。そもそも、自分のところの商品がパンフレットに書かれている通りに使われているという確証がどこにあるんですか?日本の企業の多くは良くも悪くも売りっぱなし。実際にその商品がどういう風に使われているかということを調べて、その商品の意外な使われ方が分かって、そこからマーケティングを軌道修正したという例が最近も(手がけたプロジェクトの中で)ありましたよ。


坂井:私はもともとデザインをやっていて、自分のデザインを通したいがためにマーケやブランディングを学んだみたいなところがあります。デザインは楽勝で(笑)、大変さの85%がネゴ、根回し。自動車メーカーなんて、車の型を一つ通すために社内で100人くらい説得しないといけないんだから。でもちゃんとデータを出すと会社が動くんですよね。それでも日本の企業って上司ばかり見ていて、コンシューマーという言葉すら出てこないところもありますよ。実際、仕事の相談に来たはずの相手から「上司をどう説得すればいいか」という話を3時間くらい聞かされたこともあって。組織体制に悩みがある場合、上司にものを言える外部(のコンサルタントなど)を使うというのは一つのやり方だと思います。

きら星のごとく誰も見つけていない事実を自分が見つけているか

石川:今日は色々とお話しいただきましたが「ブランドを生み出し、成長させるためにマーケティング部は何をするべきか」という本セッションの最後に、一言ずついただいてもいいでしょうか。

坂井: 皆さんには、一次情報に触れるということを大切にしてほしいです。 一次情報というのは、インターネットを検索しても出てこないこと。例を挙げましょうか。今、ゲームセンターに行くと置いてあるものって何だと思いますか?最近のゲームセンターには老眼鏡が置いてあるんですよ。それが変化であり“事実”なんです。ゲームセンターは小・中学生が集まる場所だと思っていたら、見誤ることがある。それがインサイトであり、一次情報というものなんです。

和田:今日話したことの全てが重要なんですが、やっぱりどれだけエンドユーザーのことを語れるのかということですね。語る時に、きら星のごとく誰も見つけていない事実を自分が見つけているか。それによって今あるブランドの運営状態を変えていくことができるのか。険しい道だけど、必ずその先には成功があるんだから絶対にやったほうがいい。マーケターの皆様にはぜひ、会社の仕組みをマーケティングオリエンテッドなものに変えることに注力してほしいですね。 あなたが屍になっても、その先で会社とブランドが未来永劫繁栄するのであれば、こんないいことはないじゃないですか(笑)

限られた時間の中、日本のマーケティングを牽引するお二人からは、インパクトの強い数々のキーワードとともに会場を笑いに包むような名言も沢山いただきました。

会場の空気感までレポートでお伝えできないのが残念ですが、今回来られなかった方は、次回ぜひ足を運んでこの盛り上がりを一緒に味わっていただければ幸いです!中編・後編では、USERDIVE connectの第二部・第三部の内容をお伝えします。


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