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CDPの活用がうまくいかない2つの要因|戦略と人材、進まないCRMへの活用

この記事では、CDP導入後の活用がうまくいかないケースによく見られる2つの要因について書いています。

筆者が2021年2月に国内初のCDP専門書籍「ユーザー起点マーケティング実践ガイド(外部リンク)」を出版してから、CDPの構築方法(別記事:CDP構築時の主な流れと手順)やCDPの比較(別記事:自社に適したCDPツールの選び方)のようなCDPやCRMに関するご質問を多くいただくようになり、それらに応えらえるようにと前段のようなコンテンツを多く作成することが出来ました。普段からこのような率直なご質問をいただける環境があることを大変ありがたく感じています。

ここ数年で、CDPを導入済みの企業が増えてきた印象があります。CDP導入済みの企業が増えるのに合わせて、そのような企業から「CDPを導入したけど使いこなせていない」「CDPが運用に乗らないけどどうしたらいいのか?」と筆者もよく質問されるようになりました。それを裏付けるように、当社のお問い合わせにも同様のご相談が増えてきています。

このことを評論家のように言ってしまえば「手段が目的になってしまった」のだと感じています。さらに、筆者の尊敬する実務家の方々でも「CDPが運用にのる=事業に活用され成果に結びついている状態」にするまでにかなりご苦労をされている印象を受けています。

今回は、CDPの歴史を少し紐解きながら、CDPの活用がうまくいかない2大要因についてそれぞれ解説したいと思います。

CDPの変遷

広告配信の拡張や効率化、データ活用に新時代をもたらしたDMP

2015年あたりから、3rdPartyDataを利用した広告の拡張配信や効率化が出来るとして、DMPが世間で脚光を浴び、浸透していきました。これがクラウドによる顧客データ活用の始まりであり、まさにデジタルマーケティングにおけるデータ活用の新時代の幕開けだったと記憶しています。

OMOや1to1コミュニケーション、CRMに活用できるCDP

2018年ごろからでしょうか、CDPが世間で注目されるようになりました。

CDPはDMPと違い、1stPartyDataに主眼をおいています。(CDPとDMPの違いについてはこちらも合わせてご覧ください。別記事:CDPとDMPの違いとは?※早見表で見る)CDPの活用目的は「既存顧客のLTV最大化」という顧客エンゲージメントの活性化であり、CRM領域である、OMOや1to1コミュニケーションの実現を主要ニーズとして広まっていきます。

テクノロジーやデータ活用推進の必要性を感じさせた世界との距離とDX

当社がCDP関連事業に参入した2019年のころ、時を同じくして「DX」がバズワード化したのは記憶に新しいかと思います。「DX戦略」が、マーケティング領域でも語られるようになり、デジタル広告やデジタルコミュニケーションの専門ツールの活用が促進されていきました。

この頃はすでに、顧客がオフラインとオンラインを自由に行き来するようになっており、顧客の実態に則した対策が求められる中、リアル店舗へのテクノロジー搭載が注目されていた時期でもありました。

世界を見るとAmazon Goなどに代表されるリテールテックや、飲食業界やアパレル業界でのテクノロジー活用が、すでに社会実装され始めていた時期です。

この領域で世界に遅れをとっていた日本の多くの企業では、米国や中国へ最新のテクノロジー活用事例を視察に行く機会が増え、世界の知見を吸収しようとしている時期だったように覚えています。

世界を目の当たりにし、日本の先進企業は、失敗のリスクより変化しないリスクを恐れ、テクノロジー活用、データ活用を力強く推進しました。筆者が、今後さらに日本でもCDPの実装が進んでいくだろうと感じたのがこの頃です。

昨今の生活様式の変化がCDPの導入を加速させた

DMPからCDPへの変遷は、広告集客による「新規顧客獲得目的」から、CRM最適化による「既存顧客育成目的」に変化したことを意味していると筆者は考えます。

DMPからCDPへの移り変わりは、当初は緩やかでした。しかし、コロナ禍がもたらしたさまざまな生活様式の変化が、顧客の行動や考えにも変化を及ぼし、この変化は不可逆であると思われ、企業側の変化への対応も待ったなしとなっています。

このような時代背景もあり、CDPの導入事例は日増しに増えてきています。特に2020年〜2022年は導入推進期だったと回想する日も近いと感じています。この流れは、2023年以降も続くでしょう。

CDPの機能や価格がより手頃になり、導入はより広い範囲で加速する

またGoogleやAmazonが提供するクラウド上のストレージが価格破壊を起こしました。GCP(Google Cloud Platform)のBigQueryがCDPとして代用される例が急増しています。この流れは2023年以降にさらに加速するでしょう。

ちょうど最近(2022年年末)CDP関連の方たちとばったり集まったカンファレンスで「今年はBigQuery案件が増えたよね」と口を揃えて近況報告をしました。(BigQueryをCDPとして活用する方法については別の記事で書きたいと思います)

最近ではCDPを導入検討する企業が大手企業だけではなくなりました。そろそろCDPもキャズムを超えて、大小問わずさまざまな企業に、それぞれの目的に合わせた形のCDPがマーケティング基盤として定着していくだろうと予測しています。

CDPの導入が進んできた今、起こっている問題

では、時代に先駆けてCDPを導入していた企業の今はどうなっているのでしょうか?

繰り返しにはなりますが、CDPの主な活用目的は、OMOや1to1コミュニケーションを実現し、顧客エンゲージメントを活性化させて「既存顧客のLTV最大化」することです。

実際はこのように使えているケースは少なく、運用面で停滞しているケースに多く出くわします。CDPを導入したのにうまく使えていない多くの現状。これこそが、筆者がこの記事を書こうと思った理由になります。運用面で停滞しているケースへの遭遇率も高いのでCDP導入の闇の部分と言っても言い過ぎではないと感じています。

こういった闇の部分は、CDPに限らず、先進的なテクノロジーの導入や、顧客データを活用したデータドリブンマーケティング等でも見られ、本来の目的にたどり着かず道半ばとなってしまうケースが多くあります。

それを踏まえて、そもそものビジネスの上流である戦略の設計に改めて目を向ける会社も増えています。カスタマーサクセスという言葉も定着し、本来の目的である「顧客が価値を享受してくれる顧客体験とは何か?」というテーマに向き合う必要があることを示唆しているのではないでしょうか。

株式会社顧客時間 奥谷氏の著書「マーケティングの新しい基本 顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント(外部リンク)」が、2022年の日本マーケティング本大賞で準グランプリに選ばれたのも偶然ではないと筆者は思います。

CDP運用の停滞に多く出くわす今を見ていると、先駆けてCDPを導入した企業こそ、改めて戦略レベルの再設計や見直しが必要となっているように感じています。

CDPの活用がうまくいかない2大要因

前段でお伝えしたCDPの本来の用途で、活用できていない場合に多く見られる要因を2つご紹介します。

  • 顧客体験における戦略設計やビジネスモデルに課題がある
  • 組織体制や人材不足に課題がある

顧客体験における戦略設計やビジネスモデルに課題がある

この課題が発生しているケースでは、CDP導入時の目的に共通点があります。

どの企業も導入の費用対効果を明示して決裁へと進めますが、CDP導入時の目的を「広告の最適化」としているケースです。

CDPの活用が、広告出稿の自動出稿制限(フリークエンシーコントロール)などの広告自体の最適化に向けた設定に止まり、1to1などCRMの最適化に向けた活用ができてないことが多いです。広告の成果や費用の最適化は、もちろんすべきことですが、CDPの本来の導入効果を享受するにはCRM活用しなければ片手落ちになってしまうと考えています。

CDPはCustomerDataPlatformであり、顧客データの統合環境です。本来は顧客理解、顧客の可視化(分析/BI化)、Who/When/Whatのコミュニケーションの最適化に力を発揮します。改めて自社が顧客にどのような価値を提供できるのか、購入起点から利用起点へ、つまりは自社起点から顧客起点に立ち返ってビジネスモデルやサービスを再設計する必要があるのかもしれません。

その再設計されたサービスにとって、どのようなデータが必要で、どのようなアクションツールが必要なのか、データやシステムの要件定義に改めて取り組むことが求められている場合があります。

組織体制や人材不足に課題がある

この問題は極めて深刻です。

当社の場合、CDPを導入する際も活用する際も、データアーキテクト、データエンジニア、データアナリストなどの専門人材をプロジェクトにアサインします。テクノロジーの知見があまりないマーケターだけではCDPを使いこなすことができません。

日本市場では、事業会社には顧客体験における概念設計やサービス企画ができる優秀な方が多くいます。しかし、そのサービス企画を実現するためのテクノロジーを活用できる専門人材が圧倒的に足りません。

実際に、社内のIT部門のエンジニアはあらゆるシステムの案件に引っ張りだこでリソースが圧倒的に足りてない、自社エンジニア(SIerパートナー含む)はマーケティングに精通してないので会話のプロトコルが合わない、そもそもいないし、採用もできない。という声を良く聞きます。

日本市場は、技術者は専門会社に任せるという外部委託の慣習が根強く残っています。仮に、IT部門が内製化できていたとして、社内の案件だとしても、要件を決めてもらわないと作れないという受託意識が高いのも事実です。要件定義から共に悩み、伴走するIT部門を育てるには、長い期間をかけるという経営の覚悟が必要かもしれません。

この課題を解決するために、多くの企業では、マーケティング部門が独自に外部パートナーと連携して推進している状況が多いです。現時点で取りうる最善の手なのかもしれません。

結果、CDPをCRMに活用できてない

前述の2つの要因により「CDPが持つ本来の目的通りに使えていない」状態に陥ります。

この結果は特に、①顧客体験における戦略設計やビジネスモデルにおける課題が大きく起因していると感じています。

これまでの販売思想から脱却し、CRMを顧客コミュニケーションの観点から見直し、LTV経営に寄与する長年の愛用者や拡散者(=ファン)を構築していくストーリーを必要とします。

そして、そのストーリーを実現すべく、②組織体制や人材不足の課題部分でもお伝えした、内製もしくは外部のIT伴走者と共に一つひとつ実践に落とし込むPDCA活動をマネジメントします。

ここで言う、PDCAマネジメントとは、成果を再現し続ける仕組み化であると当社では定義しています。言葉では簡単に言えてしまいますが、一番難しいかもしれません。

当社のクライアント企業でうまくいっているケースは、成果の大きさよりも、成果が出るリードタイムをできる限り短縮し、小さな成果をコツコツと積み上げていけるような形(クイックウィン Quick Winと世間では言われることがあります)を作っています。

何故このようなことが必要かと言うと、CDP導入のプロジェクトは費用面、リソース面、期間的にも大きなプロジェクトとなります。社を上げて取り組むことも多く、日を追うごとに社内での期待値も増して、成果への厳しい目線も増えていきます。

そもそもCRMは、ロイヤルティファネルの育成などが主な評価指標になるため、最終KGI(売上)の手前に起きる評価指標(KPI)を定義して成果として評価する方法が取られることが多く(特定セグメントのアクティブ率改善など)売上が明確に上がるまでの評価期間が長期化する傾向にあります。

そのため、CDPを通じて、やろうとしていることを頓挫させないためにも「CDPを活用したCRMは、成果を上げるのに活用できる」と社内でも認識や実感をしてもらう必要があります。大小限らず早く成果を生み出すことで、周囲を味方につける(社内で推進を支持してもらう)ことが非常に重要となります。

この記事では「運用にのせる=事業に活用され成果に結びついている状態」ためにはどうすれば良いかを歴史や実情を元に紐解いてみました。CDPは一般的に高額でありながら、CDPそのものが直接売上インパクトを出すものではないため、導入(投資)後の継続的な活用と改善が求められます。データを整理したり分析したりと地道な活動にはなりますが、CDPが事業に貢献する基幹システムとなるよう自社のステージと照らし合わせ問題の整理や対策に向けてご参考にしていただければ幸いです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


この記事を書いた人

小畑 陽一
株式会社UNCOVER TRUTH
取締役COO(Chief Operating Officer)

music.jpやルナルナを手がけるエムティーアイ社出身。ソリューション事業責任者として、大手企業向けモバイルサイト構築ソリューションで、国内ナンバーワンのASPサービスを展開。2014年、取締役として株式会社UNCOVER TRUTHの取締役COOとして経営に参加。経営・事業戦略とマーケティングを管掌。 ad:tech Tokyo / Kyushu、宣伝会議、MarkeZine、Web担当者フォーラムなど講演活動多数。
著書:『ユーザー起点マーケティング実践ガイド』(CDP専門書籍)


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