はじめに
「データ基盤はもう入っている。それなのに、全社ではなかなか使われない」——データ活用の旗振り役を担う部長・推進担当の方から、私たちが最もよく聞く悩みのひとつです。ツールを導入し、データを集めて、ためる仕組みまで整えた。にもかかわらず、現場は「どこに何のデータがあるのか」「この数字はどう定義されているのか」が分からず、結局は一部の詳しい人に問い合わせが集中してしまう。基盤の“ある・なし”ではなく、基盤と現場の“あいだ”に立つ橋渡し役の不在が、データ活用が広がらない本当の理由になっているケースは少なくありません。
本記事では、グループ全体のテクノロジー基盤を集約する会社に常駐したDX-Accelerator(以下、DXA)が、散在するデータを「使える」状態へと橋渡しし、グループ横断でのデータ活用を前に進めた事例をご紹介します。「基盤はあるのに使われない」状態から抜け出すための具体的な打ち手を、意思決定者の視点で読み解いていきます。
「基盤はあるのに、全社では使われない」という課題
本事例の舞台は、総合広告テック会社です。グループ各社に分散していたシステム開発体制を集約し、グループ全体のテクノロジー基盤を束ねる役割を担う組織で、テクノロジー戦略に基づくプロダクト・ソリューション・サービスの開発を手がけています。DXAが常駐したのは、その中でグループ社員のデータ活用を支援するデータマネジメント部門。まさに「グループのデータ活用を前に進める」ことをミッションとする部署でした。
データを集め、ためる基盤はすでに存在していました。それでも、データが全社の武器になりきれていない。その背景には、グループ全体の構造的な課題と、現場の日々の課題が重なり合っていました。
グループ全体の課題:データを「渡す」ルールと、活かす戦略がない
ひとつは、組織やグループ会社をまたいでデータを共有するための開示基準や許諾・プロセスが定まっていなかったことです。ルールがないために、せっかく蓄積したデータを組織やグループの垣根を越えて活用することが難しく、データが各所に閉じたままになっていました。
もうひとつは、その先を見据えたデータ戦略の不在です。フルファネルでのマーケティングへの対応や、グループ内の事業会社連携の推進といった経営課題に応えていくには、「データをどう共有し、どう活かすか」を描く戦略が欠かせません。基盤という“器”はあっても、それをグループの成長につなげる設計図が追いついていない状態でした。
現場の課題:問い合わせ・前処理・属人化という三重苦
現場のデータマネジメント部門では、日々の業務そのものがボトルネックになっていました。象徴的だったのが、次の3つの課題です。
1.問い合わせ対応に工数が奪われる
利用者からのデータに関する問い合わせ対応に、常に工数がかかっていました。日々の対応に追われるあまり、本来力を入れたい「利用者に対するデータ活用支援」に手が回らない、という悪循環に陥っていました。
2.前処理に時間を取られ、分析が進まない
データサイエンティストが、分析の前段にあたるデータの整備・加工処理に多くの時間を割かれていました。その結果、本来の主業務である分析業務に十分な時間を注げず、専門人材の力が発揮しきれていませんでした。
3.知見が人に依存し、共有されない
主担当者の退職や中途入社のメンバーが多く、ドキュメント化の状況にもばらつきがありました。そのため知見が個人に留まりやすく、ナレッジの共有や課題の整理に時間を要していました。人が替わるたびに知見が失われるリスクを抱えていたのです。

問い合わせ・前処理・属人化。この三重苦は、どれも「基盤があるのに使われない」状態を生む典型的な症状です。データを集める・ためるところまでは進んでいても、それを現場が迷わず「使える」状態にする役割が欠けていました。
DXAの取り組み:散在するデータを「使える」へ橋渡しする
DXAは、データマネジメント部門に常駐し、基盤と現場の“あいだ”に立つ橋渡し役を担いました。活用したのは、DXAのコアプロセスのうち「データ環境整備」「データの可視化」「ナレッジの共有」の3つ。三重苦の一つひとつに対応しながら、データを「使える」状態へと引き上げていきました。

取り組み① 問い合わせを巻き取り、データ環境を整える
まず着手したのが、現場を圧迫していた問い合わせ対応の巻き取りです。統合データ基盤上のデータに関する問い合わせに対応し、データ定義の確認や、利用者との要件すり合わせを引き受けました。その上で、要件に応じたデータの加工やビューの作成、社内アプリに搭載するデータの整備、データのクレンジングまでを担当。バラバラだったデータを、利用者が迷わず使える形に整えていきました。
問い合わせと前処理をDXAが引き受けることで、部門のメンバーやデータサイエンティストは本来の業務に集中できるようになります。橋渡し役が入るだけで、現場の時間の使い方が変わっていきました。
このデータ環境整備は、DXAの支援の中核をなすプロセスです。基盤と現場をつなぐ「データ環境整備」の考え方について、こちらの記事で詳しく解説しています。
取り組み② 可視化とナレッジで、使い続けられる状態をつくる
整えたデータは、見える化してはじめて意思決定に活きます。DXAはデータマネジメント部門のKPIダッシュボードを構築・運用し、指標を視覚的かつ直感的に把握できる仕組みを提供しました。あわせて、利用者の要件に応じたデータマートの作成も担い、必要なデータをすぐに引き出せる土台を整えました。
さらに重視したのが、知見を人から仕組みへ移すことです。BIツールの活用ノウハウや、定型業務の進め方をナレッジとして文書化・展開。これにより、担当者が替わってもデータの意味や使い方を正しく引き継げる状態を整え、属人化の解消に踏み出しました。「一度整えて終わり」ではなく、現場が使い続けられる環境をつくることを狙いとしました。
得られた効果:横断活用が進み、会議の工数も減った
橋渡し役が機能し始めたことで、変化は複数の形で表れました。
- グループ横断のデータ活用が前進
統合データ基盤に関する問い合わせ対応とデータ整備を通じて、組織やグループ会社の垣根を越えたデータ活用が進みました。閉じていたデータが、グループ全体で使える資産へと近づいていきました。 - 前処理の工数を削減
各自がばらばらに行っていたデータの整備・加工を一括で引き受けることで、すり合わせなどにかかっていた工数を削減。専門人材が分析そのものに向き合える時間が増えました。 - 会議資料作成の工数を削減し、意思決定を支援
意思決定を支えるKPIダッシュボードを運用し、定例会議で活用。これまで手作業に頼っていた会議資料の作成工数を減らしながら、データに基づく議論を後押ししました。
いずれも派手な数字ではありません。しかし「問い合わせに追われる」「前処理で分析が止まる」「知見が人に依存する」という現場のボトルネックが一つずつほどけ、データが少しずつ“共通言語”に近づいていったことこそ、この取り組みの本質的な成果でした。
今後の展望:橋渡しが回れば、データは組織の共通言語になる
基盤があるのに使われない——その状態を抜け出す鍵は、新しいツールの追加ではなく、基盤と現場の“あいだ”に立つ橋渡し役を置くことにありました。問い合わせを巻き取り、データを整え、可視化し、知見を仕組みに残す。この一連の橋渡しが回り始めると、データは一部の詳しい人のものから、組織全体が迷わず使える共通言語へと変わっていきます。
そして橋渡し役の価値は、最終的に「橋渡し役がいなくても回る状態」、すなわちお客様自身でデータを活かしていく自走化へとつながっていきます。DXAは常駐という形で、基盤と現場の“あいだ”を継続的に供給し、グループ全体のデータ活用が前に進み続ける状態づくりを支援します。「基盤はあるのに使われない」に心当たりのある方は、まず自社の“あいだ”に橋渡し役が足りていないか、を問い直してみてください。

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株式会社UNCOVER TRUTH
ビジネスデベロップメントグループ DX-Acceleratorチーム
アナリティクスエンジニアユニット リーダー。クライアントのデータ活用を推進するとともに、メンバーの採用やチームビルディング、強い組織づくりに注力している。


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