大手流通・百貨店HD:IT投資を「使える」に変える

大手流通・百貨店HD:IT投資を「使える」に変える

更新日:2026/10/05

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はじめに

「データ基盤への投資は決めた。ツールも入れた。それなのに、現場で“使える”状態にならない」——。これは、多くの流通・小売企業のデータ活用推進担当者が口をそろえる悩みです。基盤づくりに大きな予算を投じても、そのデータが日々の意思決定に使われなければ、投資は“塩漬け”になってしまいます。本記事では、百貨店・食品スーパー・商業施設を展開する大手流通グループの事例を通じて、投じたIT投資を「使える」状態へと変えていくために、常駐型のデータ人材が実際に何をしたのかをご紹介します。データ活用の内製化や、基盤移行・AI活用を検討している意思決定者の方に、次の一手のヒントとしてお読みいただけます。

本事例の中核は「データ環境整備」です。データ環境整備そのものの考え方については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

「IT投資はした。でも“使える”になっていない」という壁

今回の舞台は、百貨店事業・食品事業(食品スーパー)・商業施設事業を核に、生活総合産業として事業を展開する大手流通グループです。DXAメンバーは、環境構築・システム構築と、構築したしくみをグループ全体へ波及・推進する役割を担う「IT・デジタル推進部門」に常駐し、グループ横断のデータ活用を支える立場で参画しました。

会社の課題:巨額のIT投資の「効果活用」が次の焦点

この企業グループは、経営環境の変化を背景に、大きく3つの課題に直面していました。

1.インフレ型経済への移行とコスト高
生活防衛意識の強まりを受け、食品スーパー事業では売上の伸び悩みが顕著になっていました。加えて、原材料費や人件費の上昇も経営上の課題となっています。

2.人口減少・消費マーケットの二極化
少子高齢化・人口減少により市場が縮小する一方で、顧客層は「富裕層」と「生活防衛層」へと二極化が進行。従来型の一律なアプローチでは、変化する顧客をとらえきれなくなっていました。

3.デジタル・OMO対応の遅れと、巨額IT投資の効果活用
デジタル化やOMO(Online Merged with Offline)導入の遅れがリスクとして認識されていました。これに対し、同グループは数百億円規模のIT投資を実行中。しかし、投資したその基盤や環境を「どう効果につなげるか(使える状態にするか)」こそが、今後の焦点となっていました。

組織の課題:基盤はあるのに、動かす人が足りない

データ活用を推進する現場では、投資によって環境そのものは整いつつある一方で、それを動かし切れない構造的な課題が残っていました。

  • 分析基盤の移行とAI活用
    コストとAI活用効率の観点から、分析基盤の移行が進行中。移行を「AIも活かせる基盤」へとどうつなげるかが問われていました。
  • 技術者・作業者の不足
    実際に手を動かせる人材が足りず、一部の有識者に業務が集中。属人化と停滞のリスクを抱えていました。
  • 一部事業のデータの散在
    事業ごとにデータが散在し、グループ横断で見るための基盤整備が追いついていませんでした。

こうした課題の先に見えてきたのが、「各事業のデータに精通し、かつAI活用の提案までできる人材」——いわばデータスチュワードという役割の必要性でした。

DXAの取り組み:投資した基盤を「使える」に変える

DXAが活用したコアプロセスは、主に「データ環境整備」と「データ基盤の可視化」。加えて、分析用データの作成やナレッジ共有までを一貫して担いました。ポイントは、単に基盤を「作る」のではなく、投じた投資を現場が使いこなせる状態に「変える」ことに軸足を置いた点にあります。

取り組み①:データ環境整備 ——散在したデータを、統合して見られる状態へ

まず着手したのは、事業ごとに分かれていたデータを、グループとして統合的に扱えるようにする環境整備です。具体的には、デリバリー事業のデータ取り込みを自動化し、あわせて顧客マスタのハッシュ化・名寄せを実施しました。これにより、事業をまたいだ顧客の把握が可能になります。この過程では、他事業の担当者と連携しながら、要件の折衝から設計・技術選定・構築・テスト・実装までを一貫して担いました。

取り組み②:データ基盤の可視化と論理設計 ——「どこに何があるか」を一枚に

基盤が大きくなるほど、「どのデータがどこにあり、どう流れているのか」が見えにくくなります。そこでDXAは、ソースシステムから基盤への取り込み、基盤内での処理、基盤からのアウトプットまで、入出力(I/O)のデータフローを一つの図としてドキュメント化しました。さらに、分析基盤の移行にあわせて、分析に使うテーブルの論理設計を実施。移行を単なる“引っ越し”で終わらせず、使いやすい構造へと再設計しました。

取り組み③:分析事例の創出とナレッジの蓄積 ——基盤を「使う文化」を残す

基盤を整えるだけでは、現場に活用は根づきません。DXAは、クライアント企業に新しく加わった社員と共同で分析アウトプットを作成し、実際にデータを「使う」経験を社内に生み出しました。あわせて、移行中のデータウェアハウス(DWH)はデータセットから作り直し、テーブルやカラムも見直し。人手による分析だけでなく、将来のAIによるテーブル作成の材料としても機能するよう整備しています。さらに、気象庁の気象データを取得して基盤に格納する外部データ連携のワークフロー構築や、AIツールの利用に関する調査など、活用の幅を広げる取り組みも並行して進めました。

得られた効果:投資が“使える資産”に変わりはじめた

1.グループ統合での分析が可能に
データの集積と名寄せにより、事業をまたいだグループ統合の分析ができるようになりました。

2.人材リソース不足の軽減
一部の有識者に集中していた業務を分散させ、リソース不足による停滞をやわらげました。

3.分析環境の拡張
外部データ(気象データなど)を用いた分析が可能になり、活用できる領域が広がりました。

4.基盤全体の「俯瞰」の実現
データ基盤全体を一つのドキュメントで俯瞰できるようになり、「どこに何があるか」が可視化されました。

5.社内に「分析事例」と「ナレッジ」が残った
クライアント社内で分析事例が生まれ、ナレッジが蓄積。基盤を“使う”動きが社内に定着しはじめました。

今後の展望:「データスチュワード」がIT投資を継続的な価値に変える

データに関する知見が社内に溜まってきた今、次のステップは、それを継続的な価値へと変え続けるしくみづくりです。目指すのは、AIも活用できる基盤(AIレディな基盤)の整備——具体的には、セマンティックレイヤーの構築やドキュメントの整備を通じて、人もAIも迷わずデータを使える状態をつくることです。

その中核を担うのが、この事例で必要性が浮かび上がったデータスチュワードという役割です。「現場でどうデータを使いたいか(ビジネスニーズ)」と「システムやデータベースの構造(技術要件)」——この両者のあいだにあるギャップを埋め、投じたIT投資を“使える資産”へと翻訳し続ける。常駐型のデータ人材だからこそ、この橋渡しを継続的に担うことができます。「基盤はある。あとはどう使うか」——もし同じ壁に立っているなら、まずはその橋渡し役をどう組織に組み込むかが、次の一手になるはずです。

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株式会社UNCOVER TRUTH
ビジネスデベロップメントグループ DX-Acceleratorチーム

アナリティクスエンジニアユニット リーダー。クライアントのデータ活用を推進するとともに、メンバーの採用やチームビルディング、強い組織づくりに注力している。

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