はじめに
データ活用の内製化を進めるとき、多くの企業がたどり着く「最後のピース」があります。それが、ビジネスとデータ基盤の「あいだ」を取り持つ人材——アナリティクスエンジニアの存在です。ところが、この役割は「採ればそろう」ものではありません。市場に十分な数がいるわけではなく、外から採用するだけでは、なかなか組織に根づかないのが実情です。だからこそ鍵になるのが、「採る」だけでなく「育てる」という選択肢です。
本記事は、データ活用の推進を任された部長・推進担当の方に向けて、アナリティクスエンジニアを社内で育てるための全体像——どんな力を、どんな順序で、どのように支えながら伸ばしていくのか——を、意思決定に必要な粒度で整理したものです。個々の技術の手順書ではなく、「育成という投資をどう設計し、どう成功させるか」を判断していただくための地図として活用ください。
なぜ「採用」だけでは内製化が完成しないのか
「データ人材が足りないなら、採用すればいい」——これは自然な発想です。実際、多くの組織がアナリストやエンジニアの採用に踏み切ります。ところが、しばらくすると次のような状態に陥りがちです。
データを「作る人」は増えたのに、現場でデータを「使う人」が置き去りになる。そして、いざデータに問題が起きると、採用したエース人材がその火消しに奔走し、本来やってほしかった仕事に手が回らなくなる。
背景にあるのは、ビジネスサイドとエンジニアサイドの「あいだ」を担う中間ポジションの不在です。この空白があると、両者のやり取りは見えない壁に阻まれます。「このデータが見たい」という依頼が、そのままでは要件として伝わらない。整備が後回しになる。数字が合わない、けれど誰も経緯を説明できない——。こうした綻びは、担当者の交代やトラブルが起きたときに一気に噴き出します。「取り持つ人」がいないという問題は、平時には見えにくいからこそ、根が深いのです。
中間ポジションの不在は、大きく3つの領域に「三重苦」となって現れます。
- データの信頼性
業務が特定の人に依存して属人化・ブラックボックス化する。指標の定義があいまいで数字がブレる。結果として「データはあるが信頼できない」状態に陥る。 - 組織・連携
部門間の壁でデータがサイロ化する。「作る人」と「使う人」が断絶し、依頼が渋滞してコミュニケーションロスが積み上がる。 - 活用・スピード
分析が前に進まず高度化できない。施策のスピードが落ち、場当たり的な「火消し」対応ばかりが増えていく。

この三重苦を根本から解くのが、中間ポジションを担うアナリティクスエンジニアです。役割を組織のなかで顕在化させ、内製化のプロセスを定義して実行に移す。それによって属人化を防ぎ、データ活用が「あの人頼み」から仕組みへと変わっていきます。採用が「人を確保する」ことだとすれば、育成は「その役割を組織に定着させる」ことにほかなりません。ここからは、その育成をどう設計するかを見ていきます。
育てるべきは「3つの力」
アナリティクスエンジニアの育成は、やみくもにスキルを積み上げることではありません。目指す人物像を「3つの力」として定めることから始まります。この3軸を育成の背骨に据えることで、何を伸ばすべきかがぶれなくなります。

1.技術力
データ基盤を理解して、データを自在に構築・操作する力です。データという「原材料」を扱い、その保管庫にあたる仕組みを理解する、いわば技術的な基礎体力と応用力にあたります。
2.ビジネス課題解決力
ビジネス課題を捉えて、データで価値を創出する力です。現場の課題や要望を正しく理解し、それをデータ分析の要件に落とし込み、得られた示唆を分かりやすく伝えて解決へつなげる——この一連の流れを担います。
3.プロセス構築・連携力
データ活用のプロセスを設計して、組織連携を推進する力です。データ活用の流れを設計・標準化し、必要なドキュメントを作成・維持する。そして関係者と円滑にコミュニケーションを取りながらプロジェクトを前に進める。まさに「取り持つ人」としての中核をなす力です。
3つの力を育てる「6つの学習領域」
3つの力は、具体的なカリキュラムに落とし込むと6つの学習領域として体系化できます。ここでは各領域の「目的(何のために学ぶのか)」と「めざす業務(学びが実務でどう活きるのか)」を軸に紹介します。個々の技術の手順ではなく、育成の設計図としてご覧ください。
1.データ基盤・SQL基礎体力
データという原材料を自在に扱い、その保管庫にあたるデータベースやDWHの仕組みを理解することを目的とします。データ環境の現状を調べ、データの流れを整理し、加工の基礎を担えるようになることをめざします。
2.ビジネス理解と要件定義力
ビジネス課題を正しく捉え、データで何を解決すべきかを定義することを目的とします。ダッシュボードを作る前段の「必要な情報の精査」や「担当者との対話」を進め、分析用データの設計に必要なインプットを整えられるようになることをめざします。
3.データモデリングとマート構築実践
ビジネスユーザーが「使いやすい」分析用のデータセットを設計・構築することを目的とします。分析に適したデータの形を設計し、品質を担保しながら、実務で使われるデータマートを整えられるようになることをめざします。
4.データ可視化とストーリーテリング
分析結果やデータを、分かりやすく魅力的に「伝える」技術を磨くことを目的とします。BIツールを使いこなし、効果的なダッシュボードの設計と、データを用いたレポーティングを担えるようになることをめざします。
5.ドキュメンテーションとデータガバナンス
作成したデータやプロセスを「組織の資産」として残し、維持・管理することを目的とします。定義書やデータフロー図、マニュアルなどを整え、更新の仕組みまで含めてナレッジ共有の基盤を築けるようになることをめざします。
6.コミュニケーションとプロジェクト推進
関係者を巻き込み、プロジェクトを円滑に進めるためのソフトスキルを習得することを目的とします。技術者・非技術者の双方と対話し、要件をすり合わせ、レクチャーやOJTを通じてナレッジ共有を実践できるようになることをめざします。
これら6つの学習領域は、実務では大きく4つのプロセス——「データ環境整備」「分析用データの作成」「データの可視化」「ナレッジの共有」——として現れます。それぞれのプロセスの中身は、コアプロセスを解説した各記事でも詳しく紹介しています。まずは出発点となる「データ環境整備」から、どうぞ!
6ヶ月育成ロードマップ
3つの力と6つの学習領域を、どんな順序で身につけていくのか。UNCOVER TRUTH社内で実際に運用している育成ロードマップをもとに、6ヶ月間の流れを紹介します。基礎から実践へ、段階的に到達目標を上げていく設計です。
1ヶ月目:基礎研修(データの取り扱い)
データ分析における自分の役割を理解し、データを取り扱うために必要な最低限の技術を身につけます。到達目標は「基本的なデータの取り扱いができる」こと。ここが土台になります。
2ヶ月目:基礎研修(データの可視化)
データ分析と社会的な背景を接続して捉えながら、分析に欠かせない可視化の基礎を習得します。到達目標は「データの可視化ができる」こと。データを加工し、見せるところまでの流れが一通り回るようになります。
3〜4ヶ月目:応用研修+OJT
実務(OJT)に入りながら、より多様なデータに触れていくフェーズです。到達目標は「多様なデータを分析に合わせて最適に処理・組み合わせて扱える」こと。業界やビジネスモデルの理解も併せて深めていきます。
5〜6ヶ月目:OJT
実務を通じて総仕上げに入ります。到達目標は「システム全体を見通しながら、ビジネスサイド・エンジニアサイドの双方とコミュニケーションを取れる」こと。パフォーマンスと活用ニーズのバランスを見ながら、まさに「取り持つ人」として立ち回れる状態をめざします。

なお、研修期間は約6ヶ月を標準としていますが、これは固定の型ではありません。教育対象メンバーの技術力や、社内で割けるリソースによって前後することがあります。自社の状況に合わせて、各フェーズの重みづけを調整していくことが現実的です。
育成を成功させる「伴走体制」
カリキュラムとロードマップがそろっても、それだけで人は育ちません。むしろ育成の成否を分けるのは、日々どう支えるかという「伴走体制」です。UNCOVER TRUTHが実践している支える側の工夫と、受け入れる企業側が押さえておきたいポイントを、あわせて紹介します。
専任で教える
トレーナーにとって、研修は「本来業務」です。片手間ではなく、教えることそのものが仕事として位置づけられている。だからこそ「忙しすぎて教えてもらえない」という、育成でよくあるつまずきが起きません。
毎日の定例で進捗を確認する
定例は毎日行い、トレーナーが進捗を細かく確認します。質問は随時受け付け、研修生を取りこぼさず100%フォローする。行き詰まりを翌日に持ち越さない仕組みが、成長のスピードを支えます。
いつでも、誰にでも聞ける環境をつくる
チャットツールを使い、いつでもヘルプを出せるようにしています。トレーナーだけでなく、経験豊富な先輩社員が助けに入ることもよくある。「聞きづらさ」をなくすことが、研修生の積極性を引き出します。
一方で、育成は受け入れる企業側の関わり方によっても大きく変わります。活躍できるメンバーを育てるために、押さえておきたいポイントが3つあります。
- チームメンバーと交流する時間を早めに用意する
新しいプロジェクトで最も時間がかかるのはデータの理解です。すでに自社のデータを扱っているメンバーと早く交流できる機会をつくることで、そのハードルを下げられます。研修中のつまずきは多くのメンバーに共通していることが多く、担当者の手が回らないときに助け合える環境づくりにもつながります。 - 経験者でも、最初は成果物のチェックを丁寧に行う
多少の経験があるメンバーほど、すぐ現場に、と考えがちです。けれども焦りは禁物。後から事故が起きないよう、スキルの抜け漏れや自己流の癖が残っていないかを、最初のうちは必ず確認しましょう。 - 手を動かす時間を多く取り、フィードバックを惜しまない
アウトプットは、数をこなすほど質もスピードも上がっていきます。口頭の説明だけで終わらせず、実データに触れる機会や本人から発信する機会を増やすことで、業務への心理的なハードルが下がり、積極性が引き出されます。
育成後も続く成長と、内製化を確実にするために
ここまで、アナリティクスエンジニアを育てるための「3つの力」「6つの学習領域」「6ヶ月ロードマップ」「伴走体制」を見てきました。最後に、育成を一過性で終わらせず、内製化を確実なものにするための視点を整理します。
研修が終わっても、アナリティクスエンジニアの学びは続きます。むしろ「学んだだけ」で手を離してしまうと、半年後・一年後に綻びが表れます。ダッシュボードの更新が止まり、「この数字おかしくない?」という声に追われ、誰も触れないブラックボックスが増えていく——。せっかく育てた力も、支える仕組みがなければ、こうした負のスパイラルに逆戻りしかねません。
だからこそ、内製化を成功させるには3つがセットで必要です。すなわち、育成すること、整えたプロセスを実務で回して定着させること、そして自走できるようになるまで伴走すること。育成はゴールではなく、続く成長を支える環境づくりまで含めて設計することが、内製化を確実にします。
最後に、そもそもアナリティクスエンジニアには、どんな人が向いているのでしょうか。技術はもちろん重要ですが、それ以上に次の4つの特性が強く求められます。育成の対象者を見極めるうえでも、ひとつの手がかりになります。
- 好奇心
幅広い領域に興味を持ち、新しい知識・技術を貪欲に吸収し続けられる。 - 洞察力
集めた情報をつなぎ合わせ、点を線で結んで仮説を導き出せる。 - 根気強さ
データの理解は一朝一夕にはいかない。泥臭い仕事でも、地道に一歩ずつ進められる。 - 人のため・企業の未来のために動く
企業の向かう先を一緒に見据え、他部署の人と関わり、互いの意見に耳を傾けながら最適解を探せる。
「育てる」という選択は、時間も体制も必要です。それでも、中間ポジションを組織のなかに根づかせることは、データ活用が「あの人頼み」から抜け出し、自走へ向かう確かな一歩になります。とはいえ、すべてを自前でまかなうのが難しい場面もあるはずです。育成の設計から実務での定着まで、外部の伴走を組み合わせるという選択肢も含めて、まずは自社に合った進め方を一緒に描くところから始めてみませんか。
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株式会社UNCOVER TRUTH
ビジネスデベロップメントグループ DX-Acceleratorチーム
アナリティクスエンジニアユニット リーダー。クライアントのデータ活用を推進するとともに、メンバーの採用やチームビルディング、強い組織づくりに注力している。

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