はじめに
「内製化を進めよう」とアナリストやエンジニアを採用した。それなのに、なぜか現場は変わらない——。多くの組織で、この“つまずき”が起きています。原因は、内製化のゴールを「人を増やすこと」に置いてしまうことにあります。本記事では、内製化を「データ活用のお膳立てが完了している状態」としてとらえ直し、意思決定者がゴールを見誤らないための考え方を整理します。
本記事の前提となる「ビジネスとエンジニアの分断」や「取り持つ人の不在」という構造課題については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
なぜ「作る人」を増やしても内製化しないのか
内製化と聞くと、まず「アナリストやエンジニアを採用しよう」と考えがちです。ところが、現場ではしばしば逆のことが起こります。「作る人」は増えても「使う人」が置き去りになり、データに問題が起きるたびに、採用したばかりの人材が火消しに奔走する——。これは、本当の意味での内製化と言えるのでしょうか。これは「コスト投下の罠」とも呼べる状況で、典型的には次のような症状として表れます。
1.“マイ分析官”と独自ツールの乱立
各部署にそれぞれの分析担当と独自ツールが生まれ、分析官は対症療法専門の「お医者さん」のような存在になっていきます。エース人材はレガシーシステムの解読と社内の根回しに疲弊し、気づけば「守りの保守」で手一杯になります。
2.期待のエースが「ナンデモ屋」化する
「基盤も分析も報告も全部やります」「トラブル対応もお任せください」。頼れる人材ほど仕事が集中し、教える時間が取れません。結局、現場の相棒はExcelのまま。本人も「助けて」と言い出せない状態に陥ります。
3.根本原因は「中間ポジション」の不在
これらの症状の根っこにあるのは、ビジネスとエンジニアを取り持つ「中間ポジション」の不在です。この不在は普段は見えにくく、人員の交代やトラブルの発生をきっかけに、問題が一気に噴出します。
中間ポジションが不在のまま放置されると、課題は大きく3つの方向に広がります。
- データの信頼性
属人化・ブラックボックス化、定義なきデータによる指標のブレ、データ品質の低下。 - 組織・連携
部門間の壁とデータのサイロ化、「作る人」と「使う人」の断絶、依頼の渋滞によるコミュニケーションロス。 - 活用・スピード
分析が進まず高度化できない、施策スピードの低下、場当たり的な「火消し」対応の多発。

内製化とは「お膳立て」が完了している状態
では、内製化のゴールをどこに置けばよいのでしょうか。私たちは、内製化とは「データ活用のお膳立てが完了している状態」だと定義しています。この視点に立つと、採用や体制づくりの優先順位が大きく変わります。
「お膳立ての完了」が内製化のゴール
内製化された状態とは、個々人のスキルや高機能なツールが揃っていることではありません。データ活用の「お膳立て」が整い、担当者が代わっても、現場の誰もが必要なデータにたどり着き、意思決定に使える——その状態を指します。人に依存した“点”ではなく、組織の“仕組み”でデータ活用が回ることが、めざすべきゴールです。
「お膳立て」を支える2つの鍵
お膳立ては、次の2つの鍵で成り立ちます。どちらか一方では片手落ちになり、「作る人」を増やすだけの状態に逆戻りしてしまいます。
1.「取り持つ人」の役割を明確にする
ビジネス課題を理解して必要なデータを定義・整備し、技術(データ基盤)とビジネス(現場の活用)の橋渡しをする。データ定義やプロセスを文書化して維持・管理し、組織全体のデータリテラシー向上を支える。この役割を組織内に定義し、責任者を置くことが第一歩です(社内で担い手が見つからない場合は、外部の活用も選択肢になります)。
2.「データ活用プロセス」を設計・実行する
データの流れ(どこから来て、どう加工され、どこへ行くか)の可視化・整理、指標定義の明確化と共通言語化、データ品質を担保するルールとチェック体制、各種ドキュメント(定義書・フロー図・マニュアル等)の作成と更新ルール、BIツールの選定・導入・活用ガイドライン——これらを整えることが、いわゆる「お膳立て」です。仕組みで属人化を防ぎ、効率化を実現します。

お膳立てを形にする「4つのコアプロセス」
「お膳立て」は抽象的なかけ声ではなく、具体的な4つのコアプロセスに落とし込めます。これが、内製化を実際に進める際の作業単位になります。
1.データ環境整備
DWH/BIを整理し、定義書・データフローを文書化する。必要に応じてフローの修正や中間処理も行う。
2.分析用データの作成
分析要件に基づいてデータを作成する。繰り返し使うデータは定義・フロー化して効率化する。
3.データの可視化
データからBIを構築し、定義書・使い方を文書化する。現場での使いやすさも考慮する。
4.ナレッジの共有
プロセスを共有してナレッジ化し、最適な形式でレクチャーを実施する。これにより、組織の“自走化”が進む。
各コアプロセスの具体的な進め方は、プロセス別の記事で解説しています。
お膳立てを担い、回し続けるのが「取り持つ人」=アナリティクスエンジニア
2つの鍵と4つのコアプロセスを担うのが、中間ポジション=アナリティクスエンジニアです。役割を顕在化させ、属人化を防ぎながら、内製化プロセスを定義し実行していきます。「お膳立て」は一度組めば終わりではなく、運用しながら回し続ける必要があるため、その担い手を組織に根づかせることが内製化の要になります。
「作って終わり」では砂上の楼閣になる
最後に、意思決定者が押さえておきたい注意点があります。スキルを学び、仕組みを一度作っただけでは、組織は変わりきれないということです。半年後・一年後には、ダッシュボードの更新が止まり始め、「この数字おかしくない?」という声の原因調査に追われ、誰も触れないブラックボックス化したデータ処理が増えていきます。お膳立てが回り続けなければ、せっかくのデータ基盤も“砂上の楼閣”になりかねません。
内製化のゴールは、「作る人」を抱えることではなく、「お膳立てが完了し、仕組みとして回り続ける状態」です。だからこそ、取り持つ人の役割を定義し、プロセスを設計・運用し続けることが欠かせません。自社だけでの立ち上げが難しい場合は、外部の伴走支援を活用して“お膳立て”を供給し、自走できるようになるまで並走してもらうことも、有効な選択肢になります。
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